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厚生労働省指導による専門医制度に係る懇談会の進展状況

■「歯科矯正領域における専門医制度の現状と問題点」(JIO広報第1号より)

歯科矯正領域における専門医制度の現状と問題点およびJIOの専門医制度
JIO会長 深町博臣


卒後専門教育制度の未定が混乱の主因
 現在、歯科医師総数は約9万5千人、その中で「主に矯正に従事している」歯科医師数が約3%の3,000人、一方で「矯正に従事している」と答えた歯科医師は5人に1人、約2万人(平成十六年厚労省実態調査)で、現状の歯科矯正臨床の混乱を如実に表している。混乱の主因として、以下の三つが挙げられる。一つは、自由標榜制度。二つ目は、1989年に開始された日本矯正歯科学会(以下、学会)認定医制度。2002年まで書類審査だけで認定医を輩出し、現認定医数は約2,100人。最後の一つは、卒後専門教育。日本では各大学に一任されている。日本矯正歯科学会誌に掲載された卒後教育実態調査の報告によると、様々な研修実態があり、大学間での格差が著しい事が明らかになっている。

欧米では、厳格な卒後研修制度を整備
Primary boardの専門医重複取得は不可

 欧州では、ある一定レベルの矯正歯科医療を提供する目的で15カ国が参加して策定した卒後研修プログラム(Erasmus Program)がある。
75%は共通のカリキュラム、25%は各国の事情に合わせた選択性であり、最低50症例の患者治療を開始させる事、常に矯正専門医の指導の下に治療を行なう事、終了時に10症例の技能評価を受ける事、その際に外部評価者を1名以上招聘する事などが定められている。
 米国においては米国歯科医師会(ADA)が認可した研修機関において研修を受け修了認定を受けた歯科医師が、Orthodontistとして活躍している。米国の専門医制度の考え方は、ADAのもとに、卒後教育認定協議会を設け、各年度の研修医定員を策定し、それによって専門医数を制限して、経験数を確保する事で質を担保しようというもの。研修機関に認定される為には、ADAが定めた一定基準と、専門協会が定めた特定要件をクリアする必要がある。
 また、米国の専門医制度には基本領域が定められていて、基本領域の重複取得は不可。医科で24、歯科では9あり、矯正も基本領域の一つ。従って米国では矯正専門医で、小児歯科専門医という事はあり得ない。

日本では、複数の専門医取得も可能
卒後研修は、全て大学に一任

 日本では、厚生労働省の管轄のもとに、歯科医師会、歯科医学会、認定医専門医制協議会が関与して、平成17年2月に専門医制度のグランドデザインを発表。専門領域外の診療も可能、複数の専門資格の取得が可能という内容。卒後専門教育の整備に関する言及はない。

臨床医を篩にかける専門医制度には公平性と透明性が不可欠
 歯科における専門医制度とは、幅広い臨床能力を持つ一般歯科医と、特定領域で高度な臨床能力を持つ専門医とが連携する事で、患者に高度な医療を安全に提供するための制度。医療を分業して、特殊な症例は専門医に集中させる事で、効率と安全性を達成するための制度と言える。本来であれば、欧米の様に卒後研修制度を確立し、社会に出る前の段階での認定が必要だが、卒後研修制度が未定の日本においては、技能評価を確立し、臨床医を認定する事から開始するしか方法がない。既に社会で機能している臨床医を峻別する制度であるため、公平性と透明性が極めて需要。

4つの特徴を持つJIO技能評価
 JIOが重視したのは、以下の4つ。
  1. 最初の審査委員の選任:1000例以上の臨床経験を持つ専門開業医である事。もしくは30年以上の専門医教育歴を持つ教育者を選定基準として、JIO会員総会にて選任。
  2. 臨床経験の重視:100症例の自己治験例リストを提出し、審査委員会により選ばれた5症例の術前、術後の資料を提出し、評価を受ける。
  3. 第三者委員を招聘:矯正専門医だけの審査では、評価が偏る可能性があるため、公平性に配慮して一般歯科医(歯科医師会の役員或いは大学の教授)を招聘している。また、患者の視点を取り入れ、社会に対して透明性を持たせる意味で、医療消費者の代表を招聘。
  4. 裁定委員会と異議審査委員会の設置:裁定委員会はJIOの認定歯科矯正医に社会からクレームが寄せられた時に、調査、報告、裁定を下す役割を持つ。異議審査委員会は、認定審査を受けた会員のクレームを受け付ける委員会。
 以上、技能評価に関するシステムを確立できたので、卒後専門教育制度を含めたJIO専門医制度を構築し、過日、厚労省へ申請書類を提出した。


専門医制度の問題点が浮き彫りに
JIO第6回学術大会・講演およびシンポジウム
講演1
日本における専門医制度の問題点と方向性
日本医学会会長 高久史麿先生

「医科における専門医制度改革は頓挫している」
「専門医の質が担保されてないことが大きな問題」

 高久先生は講演の中で「専門医制度は、なかなか方向性が無く、医学の分野でも迷っている。ただし、患者さんに対する一つの保証であるので、運営する学会は患者さんに対して責任があると考えている。」と学会の責任を指摘された。また「専門医制度の問題点の一つはその質が必ずしも担保されているとは言い難く、特に外科系の場合の専門医は技術的な担保が必須と思うが、必ずしも全ての外科系の学会専門医が技術的な認定を受けているとは限らない。」という現状を示された。さらに「日本医師会第III次学術推進会議において特定専門医という新たな資格を提言し、技術の評価、診療報酬加算、専門医数の決定等にも言及した。それを受けて昨年八月に審議会がスタートしたが、日本専門医認定制機構から具体案が出てこないため、未だ実質的な討論は行なわれていない。」という事を指摘され、その背景には「認定制機構は全て学会からの資金で運営されているという問題がある。」事を指摘された。

講演2
歯科矯正領域における専門医制度の現状と問題点およびJIOの専門医制度
JIO会長 深町博臣

「歯科矯正分野は卒後専門教育制度の未定が混乱の主因」
「専門医制度にはフェアネス・公平性・透明性が必須」

 深町会長はシンポジウムに先立ち、アメリカ、EUの専門医制度を紹介した上で現在日本で運営されている歯科分野の専門医制度に対して「専門領域外の診療も可能、複数の専門医資格の取得が可能」という現状に疑問を投げかけた。さら
に、歯科矯正領域の卒後研修システムが各大学の教授の裁量権に一任されている実態にも言及し「卒後研修カリキュラムをチェックする仕組みの構築が急務」と訴え、「教育システムが混迷している状況での専門医制度はフェアネス・すなわち公平性・透明性が必須である。」と締めくくった。

シンポジウム
「専門医制度は医者のためにも患者のためにもなっていない」
「学会主導(大学主導)で実技、臨床技能評価は難しい」
東海大学医学部教授 谷野隆三郎先生

 日本形成外科学会の役員経験者でもある谷野先生は「専門医制度は崩壊している。今の専門医制度は医者の為にもならない、患者の為にもならない。今広告できる約50学会は、ほとんどが大学主導。大学主導で本当の実技、臨床能力の評価は、ほとんど不可能。」と医科の現状を指摘、JIOの活動に対しては「JIOの認定は、非常に厳しいハードルを設けて、しかも本当に臨床能力がある人が評価している。これが認められるという事は、歯科学会だけじゃなく、医科学会に対してもひとつの試金石として、大きな波紋を広げてくれる可能性があり非常に期待している。」と述べた。

JIOの取り組みは、医学の外科系にとっても非常に参考になる」
「学会が教育施設の認定まで行うかが非常に問題」
日本医学会会長・自治医科大学教授 高久史麿先生

 深町会長の講演を聴き終えシンポジウムに参加されていた高久先生は「今日初めて矯正歯科の話を聞いて、非常に感心した。このJIOの取り組みは、医学の外科系にとっても非常に参考になると思う。」と理解を示した。また専門医制度の運営に関して「米国は、相当なエネルギーを使って現場に出向いて、まず、その施設が認定施設というか教育施設に適するかどうか、それから適正な認定数を絞っているわけですね。カリキュラム、実績、ボードマンになる数、そういうものを全部勘案して、施設での研修医数を決めている。日本でもそれをやれば可能だと思いますけれども、学会がそこまでやるかどうかという所が非常に問題ですね。」と意見を述べた。

「患者・国民の視点に立った専門医制度を期待する」
厚生労働副大臣 武見敬三先生

 武見先生はまず現行の専門医制度に関して「学会ごとの資格でレベルや名称に統一性がない。第三者機関等による公平性の担保がなされていない。実際に必要な専門医数の検討が不十分である。」と問題点をあげた上で「歯科矯正の分野では貴会を含めた関係団体でご議論され、患者・国民の視点に立ったより良い専門医制度ができあがっていくことを期待する。」と述べた。

「専門医に必要な知識はエビデンスに基づいたガイドラインと関係が深い」
日本医療機能評価機構 部長 吉田雅博先生

 吉田先生は「今5つほど専門医を持っていますけれども、この試験を受ける時とこの試験を受ける時は百倍も努力が違ったなというくらいのレベルも実際にはあります。」とご自分の経験を披露した。また「知識の試験に関しては、エビデンスに基づいたガイドライン作成という事に関連して、ご協力できるかなという風に思います。」と述べた。

「医療界全体に対して何らかのインパクトを持つ事を期待」
読売新聞社会情報部 鈴木敦秋記者

 最後に司会の鈴木氏は「JIOの制度の特徴は、1.患者本位の姿勢、2.技術認定の厳しい基準、3.開業医を中心とした職能団体で取り組んでいる事。良い形で結実して、医療界全体に対して何らかのインパクトを持つ事を期待している。」と締めくくった。

 

 


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